MAN WITH A MISSION『My Hero/Find You』シングル解説

 MAN WITH A MISSION、約9ヶ月ぶりのニューシングルが届いた。これまでも新たな音源を完成させるたびに、ロックの王道とMWAM的新テーマを同居させた5匹の信条を見せてくれる感覚があったが、このシングルはその最高到達点なのではないか。
 ただ王道を進むだけではない。同時に、音楽的なる新たな挑戦ができるのかーー。それは「バランス」という言葉で説明するには100%と100%のぶつかり合いであり、S極とN極を「渾然一体」にさせると言い切ってしまうのは、高度の洗練されたスタンスである。MWAMは常に、ロックバンドとしての衝動と、クレバーな表現を行うアーティストとしての洗練を追求してきたバンドだが、今その確信な最高潮になりつつある。その証明がこのシングル、『My Hero / Find You』なのである。
 このシングルはマンウィズにとって初の「両A面」シングルになっている。ここのポイントだと思う。2曲とも素晴らしいタイアップ楽曲に抜擢されているが、そこにも、それぞれに目的と世界観が明確に作り込まれているがゆえの相性の良さという理由があるのだろう。
 1曲目“My Hero”は一聴して聴いてふたつの大きな印象を感じることができる。ひとつは、前述で言うところの「王道」感である。堂々たる王道感。分厚いリズムセッションの重低音、鋭く切り込んでいくギターフレーズ、肉体性のあるメロディ、そして2匹のヴォーカルのシュアなスイッチング。バンドアンサンブルは研ぎ澄まれ、無駄な贅肉のない引き締まった体躯を想起させる。そんなMWAM的王道ロックサンドがここには、見事な形で刻み込まれている。
 それからもうひとつ。それは「挑戦」であり、「新機軸」と呼べるものーー全編を流麗かつ華美に彩っているオーケストレーションだ。それも、「味付け」程度の導入ではない。メロディ、歌詞、歌、アンサンブルによるロックバンド像をぐわっと包み込み、巨大な世界観そのものを出現させるような、映像的なドラマを生み出す最大の装置として機能している。
そんなふたつの要素を導入した“My Hero”について、ROCKIN’ON JAPAN12月号のインタヴューの際、ジャン・ケン・ジョニーはこう語っていた。(編集部による翻訳後のテキストです)。

 「SF特有の異質で壮大な、絶望と希望が入り乱れる作品の世界観を、助長できるような曲を作りたいとカミカゼ(・ボーイ/B・Cho)はずっと言ってましたね。アップデート感と懐古感のバランスがものすごく良くできたんじゃないかなあと。チャレンジという意味では、今回初めてフルオーケストラでやりましたし、遊び心が詰まってるんじゃないかなと。カミカゼの中でフルオケでやるかものすごく悩んでたみたいですけど、それこそパンチ力という意味ではオーケストラに敵うわけありませんので。でも圧倒的に重厚なので、ドラマチックな演出を与えるには爆発的な効果を生んでくれたと思います」

 オーケストレーションという新たな武器を手に、5匹は新たなエモーションの激流を生み出してみせたわけだが、MWAM的王道の、その最深部を担うヴォーカルスイッチングにおいても、発想のさらなる進化を見ることができる。トーキョー・タナカとジャン・ケン・ジョニー、2匹の歌はここでは明確な役割を与えられ、タナカはこれまで以上にエモーショナルにタナカ像をまっとうし、ジャン・ケンはやはりこれまで以上に鋭くジャン・ケン像を切り込んでいく。

 「ものすごくパンチ力のある切り替え方をしてるのかなあと。僕は、ヴォーカルをスイッチする時に詞の世界観も変わっていなければ僕は個人的に嫌なので。今回はタナカはサビだけなんですけど、それならサビに強い言葉を並べないと効果的にならないよねとか。詞の世界観のアレンジという意味でも、バッツリ切り替わるっていうふうにしたほうが映えるんじゃないのかとか。すごく相談した気がしますね」

 そして、ヴォーカルのあり方による世界観のプレゼンテーション、という観点において、さらに一歩先に進んだ5ヴィジョンを見せてくれるのが、もうひとつのA面曲“Find You”である。この曲はジャン・ケン・ジョニーが作詞作曲を手掛けた、オール日本語詞のミドルナンバー。MWAMファンならおそらく、問答無用で涙腺が緩む、ジャン・ケン・ジョニーのセンチメンタルサイドが炸裂した名曲と言っていい。そんな話を振ると、ジャン・ケンは照れくさそうに笑いながら、素直に話してくれる。

「いやまあ、サウンドという意味では完全にそうですね。俺でしかないっていうか(笑)。ただ詞やメロディに関しては、女性が歌いそうな詞だったり世界観を作ったつもりなんですよ。だから、僕は歌録りするまで、正直ずっと『う~ん』って思いながらやってたし、詞ができ上がった時に、ちょっとこれはひとりの人格が歌わないと嫌だなって思って。これは、歌い手のストーリーが一貫した強い楽曲になってほしいなあと思っていたので、じゃあタナカさんに最初から最後まで歌ってもらおうと」

 ジャン・ケンが「他の誰か」を思い浮かべながら書いたこの曲は、不思議なことに、何よりも「ジャン・ケン・ジョニーらしい」淡く、儚い世界観を持った名曲になった。そして、トーキョー・タナカが一匹で、その全身全霊を注ぎ歌い上げるこの楽曲はむしろそのことによって、ジャン・ケンがメロディに託す刹那のセンチメンタリズムを浮き彫りにすることになった。こう書けば分かってもらえると思うが、2匹のヴォーカルがそれぞれに補完し、刺激し合い、巻き起こす化学反応は今あらためて、最高到達点に達しつつあるということなのではないか。MWAMは今、過去どの瞬間にも劣らない、最強の季節を過ごしている。

 豪奢なオーケストレーションと、均整の取れた鋭いバンドアンサンブルがまったく新たな物語を生み出してみせる“My Hero”の世界観。そして、ジャン・ケン・ジョニーの淡き作家性を、トーキョー・タナカの「いかなる世界もエモーショナルに染め上げる」ヴォーカルがドラマチックに描き出してみせた“Find You”。この2曲をもって、MAN WITH A MISSIONは今再び、ロックに魅せられた青春のあり方とバンドの可能性、そして蒼く鮮やかなメロディにしか生み出すことのできない普遍的な感動、その最高峰に手をかけようとしている。
 この5匹の夢はここからまだまだ続いていくーー。今回届いた両A面シングル『My Hero / Find You』はその事実を高らかに宣言するような、大充実の傑作シングルである。



小栁大輔(ROCKIN’ON JAPAN編集長)